介護日記24 神隠しのような数十分

介護日記
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緩和ケアへの移行を告げられた帰り道。

外はしとしとと雨が降っていた。

うちの駐車場は建物から少し離れている。母を濡らさないようにと思い、建物の入口まで車を寄せて母を先に降ろした。

「ちょっと待っててね」

そう声をかけて、車を駐車場に停めに行った。

ほんの数分のことだった。

車を停めて戻ってくると――

母の姿が、どこにもない。

え?

え?

入口の周りを見てもいない。建物の中も見渡す。

何度も行ったり来たりして探す。

うちはエレベーターがない。

数分の間に階段を上って部屋まで行ったとも思えない。

玄関のドアも開いていない。

まるで、神隠しにあったようだった。

隣の家や下の階のインターホンを押してみる。

でも誰も出ない。

どこに行ったの?

悪い想像ばかりが頭の中をぐるぐる回る。

歩くのもやっとの母が、雨の中外へ出たとも思えない。

でも、どこにもいない。

呆然と立ち尽くしながら、

「どうして目を離したんだろう」

という後悔の気持ちが押し寄せてきた。

時間だけが過ぎていく。

数十分探しても見つからない。

もう仕方ない。

警察に電話しよう。

人生で初めて110番に電話をした。

「事件ですか?事故ですか?」

そう聞かれ、母が行方不明になったことを伝える。

年齢、服装、髪型、身長。

細かく質問される。

警官が来てくれるので、自宅で待つように言われた。

階段を上って部屋に戻ろうとしたその時、

一階の方から人の気配がした。

何だろうと思って降りていくと、

そこにいたのは――母だった。

そして一階の住人の方。

どうやら母は、いきなりその家に入ってきて、座っていたらしい。

住人の方も相当驚いたと思う。

老人だから許されるかもしれないが、世が世なら不法侵入に近い。

それでも、何も起きなくて本当によかった。

ひとまず住人の方にお礼を言い、母を家に連れて帰る。

母はまったく悪びれる様子もなく、自分がしたことも覚えていないようだった。

自分の家の場所も、もう分からないのか。

そう思うと、少し悲しくなった。

ただでさえ緩和ケアの宣告を受け、心が壊れそうになっていたのに、この出来事で一気に疲れが押し寄せてきた。

その後、菓子折りを持って改めて一階の方に謝罪とお礼に伺った。

すると住人の方はこう言ってくれた。

「うちの父も認知症で苦労したんです。お気持ちはわかります。気になさらないでください」

その言葉に、少し救われた気がした。

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