今日から、母は緩和ケア病棟へ移された。
この2日間は一般病棟の個室にいて、面会時間なども配慮してもらっていたけれど、やはりどこか居心地の悪さがあった。
それが今日から、ようやく24時間面会が可能になる。
緩和ケア病棟の入院のしおりには、
「大切な人を看取ること」「旅立ちまでの体の変化」について書かれていた。
お気に入りの服があれば、最期に着せてあげてもよいこと。
葬儀の準備についても考えておくこと。
ひとつひとつの言葉が、
“その時”が近づいていることを、静かに現実として突きつけてくる。
病室の母は、
目がとろんとしてきた。
でも、以前のように顔をしかめることはなくなった。
緩和の点滴が効いているのだと思う。
呼びかけると目を開けてくれて、
「すみません、今何時?」と声を出してくれることもある。
手を振ると、ちゃんと振り返してくれる。
それでも、確実に病状は進んでいる。
この時間を逃してはいけない。
そんな思いが、強く胸に残った。
もしかしたら、
こうして言葉を交わせる時間は、もう長くはないのかもしれない。
今この瞬間が、とても貴重な時間に思えた。
念のために持ってきたお泊まりセット。
本当は車に積んでおくだけのつもりだったのに、
こんなにも早く使うことになるなんて、少し皮肉だ。
夜はそのまま泊まり込むことにした。

静かな病室の中で、
どこからともなく「ジーッ」という音が、一定の間隔で聞こえてくる。
テレビを消すと、余計に気になる。
母はほとんど眠っているので気にしていないだろうけれど、
私はどうしてもその音が気になってしまう。
夜勤の看護師さんが定期的に見回りに来てくれる。
そのたびに目が覚める。
思い切って、あの音について聞いてみた。
最初は冷蔵庫かもしれないと言われたけれど、
電源を抜いても音は止まらなかった。
一応確認はしてくれるとのことだったけれど、
たぶん、このままなのだろうなと思っている。
この部屋は有料の個室で、かなり広い。
空きが出れば、無料の少し狭い個室に移れるらしい。
でも、それはまだ先になりそうだ。
ここがこういう場所だからこそ、
「早く空いてほしい」と思うことに、どこか後ろめたさを感じてしまう。

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